野球の話(バファローズの話)
黒い霧事件でも立ち向かったエース
プロ野球に「夢」を期待するのであれば、こういう話題は避けるのが普通だし、昨年の合併問題でもそうだが、「もう、済んだこと」とか「前向きに」など片付ける手段もあろう。私もそうありたいのだが、しかし一方で、現実界から目を背けるようにも思えるし、もしかしたら、野球界に限らず、一般企業でも表裏一体の面もある。よって、無視はしたくないし、私なりの見方もそれなりに纏めて置きたいので、ちょっと書いてみた。
「野球選手は個人事業主」とは、良く言ったものだと思う。球団に所属はしているが、とどの詰りは、あくまで個人に依存される「自己責任」社会でもある。だから、練習・試合における活動や、試合以外の日々の行動についても、エクスキューズできるよう、求められるような仕組みになっている。
話は本題。2005年シーズンが始まって間もなく、かつて西鉄ライオンズに在籍していた「池永正明」氏の、球界復権がなされた。「復権」つまりは「永久追放」の身を余儀なくされ、その追放が解かれたのである。何故、永久追放(正式には、永久失格選手)になったのかと言えば、昭和44年後半から昭和45年にかけて、野球賭博にかかる、選手の関与つまりは「八百長試合」の疑いが球界を覆い、関係筋の証言を元に、日本野球機構(NPB)による調査の結果、西鉄ライオンズの数名の選手を中心に、その程度に応じての処分がNPBの判断で下され、池永氏は永久失格選手となったのである。世に言う「黒い霧」事件である。
当時のことは、私自身はこの世に生を受けていたが、幼児であったので、知る由もない。しかし、それに関連する書物や資料を、幾らか読んでみたが、それこそ2004年の球界再編騒動と同レベルの混乱だったと想像する。詳しいことは、ここでは余り述べないが、池永氏は「断じて行っていない」と、法廷でも言い続けたのだが結局認められずに終わった。しかし、ことが重大なだけに、当然西鉄ライオンズのみならず、他球団にも波及しているのではないかという疑いは当然あり、その「八百長」の胴元である関西の球団にも、捜査のメスは入った。
で、これは実際に讀賣新聞にも掲載されたそうだが、当時の近鉄バファローズのエース「鈴木啓示」さんについても、池永氏らの処分が決定してから1ヶ月後に記載された。それはどういうことかというと、啓示さんに「八百長」の依頼をした者の「逮捕」ということである。実際、依頼をしてきた人物は、近鉄バファローズOB選手で、引退してから「その筋」の道を歩んでいたそうだ。あるとき、大阪市内の繁華街で、啓示さんを飲みに誘ったそうで、啓示さんも別段断る理由もないし、そのOB氏が現在どうしているか知らず、懐かしい先輩にちょっと誘われた感じだったそうだ。しかし、程なく話は「鈴木、お前ももういっぱしのエースや。これからも、長いことやってくんやったら、ワシらに手ぇ貸さなアカン」と。さすがに大投手の啓示さんは、あーそういうことかと、暗に「八百長」を示唆されたことに気付き「すんまへん、そんなんは絶対できまへん」と、敢然と拒否し、直後その筋の人間も出てきて脅されたのだが、全く怯まずに拒否。球界を代表するエースの、面目躍如であった。そして、翌日即近鉄球団フロントに、そういう誘いがあったことを告げ、近鉄球団はNPBに報告し、然るべき措置により逮捕となり、当然啓示さんはお咎めなし。当たり前の話である。
池永氏の場合は、同様に西鉄時代の先輩投手から誘いがあり、ある試合で手心を加えてくれと依頼され、当然拒否はしたが、手付金のような現金をその場で預かってしまった。池永氏は、その先輩に大変世話になったこともあり、しかも先輩が苦しんでいるのを承知していたので、無下に断り切れなかった。結果的に、その手心を加える試合に、当初は登板予定だったが、既に順位も確定していた消化試合でもあるので登板せず。試合も、西鉄が敗れたので、賭博的にも良かったとして、預かった金も返そうとした。しかし、その先輩は捕まらず、以後一切出会っていないそうだ。そのシーズンオフに、西鉄を中心に黒い話題が広まて行き、池永氏も疑いを掛けられたが、やっていないの一点張り。実際、その試合には登板していないのは事実であり、手心を加えようにもできない。しかし、その先輩投手とのやり取りを、球団なりに報告義務は怠っていた。それは「先輩の顔を立てる」ということで・・・
上記の2点、鈴木啓示さんの場合は、非常に正しい手順であると思う。もちろん、人間ですから、脅されれば怖いだろうし、拒否できないことも多々あります。よって、啓示さんのように、その場でその筋の者を相手にして突っ撥ねられなくても、即球団に報告することが正しい行動です。池永氏の場合は、それを怠ったのは事実で、ある意味それが致命的だったと思います。その背景には、啓示さんが入団した頃の近鉄は、ご本人が言うとおり「ダメな先輩ばかりだった」こともあって、心中では先輩達を卑下していたかも知れず、一方で池永氏の場合は、一時の勢いは失せていたといはいえ、九州の強豪西鉄ライオンズの血はまだ残っていて、尊敬できる先輩も多かったことがあると思います。大事なのは、何故自分はそう判断したかということを、汎用的に説明できる行動を取っているか?ということなんでしょうね。「先輩の顔を立てる」という、ある種体育会系にある暗黙のルールでは、心情的には理解できる人はできても、説得力に欠けるという判断だったと思います。選手は個人事業主ですから、自分の身は自分で守らなければいけません。よって、日々の行動も、球団の管理責任以上に、自己責任が問われると思います。
ただし、この「黒い霧」事件に関連する事項として、ある意味池永氏という、それなりの大物選手をを葬り去ることで、世間に対して納得させようとしたNPBの判断は、非常に疑問があるという見方が一般的です。本来であれば池永氏以上に、黒い世界に手を染めた「人気球団」の有名選手は多く存在するということです。その辺りについては、興味のある方は、他の資料で確認してみては如何でしょうか。
恐らく、現代も「野球賭博」そのものは行われているでしょうが、現場の選手が関与するような形態は、全くないと言って良いでしょう。がしかし、その筋関係者との付き合いや、金品の授受、登板日漏洩など、様々な憶測も含めて、野球選手の身の周りには危険が伴いますし、少々活躍したからといって有頂天になる選手がいるのもまた事実です。一時期と比べ、ほとぼりは冷めていますが、忘れた頃にやってくるものでもありますから、十分に気をつけて欲しいものです。