生で見た記憶に残る試合
| 平成16年7月4日 | 球団合併断固反対! | 買い手が居るやないかい! | 対オリックス | 大阪ドーム |
「いてまえ!」の心意気HPを開設し、過去に見てきた思い出の試合を書き綴って行くようにしたが、さすがに歳月が過ぎた試合を思い出すのは一苦労である。もっとも、こんなことを書いたら、読んでいる方々は気分を悪くするかも知れないが、基本的に自己満足の世界で運営しているので、今後もマイペースでやらせて貰おうと思っている。よって、焦らずひょんなきっかけで思い出すかも知れないので、その時々に書いて行きたいと思う。ただ、一方で比較的最近の試合は、私自身の記憶が鮮明なうちに書いて置きたいとも思っているので、あの苦悩の2004年の中で、最も忘れられない試合を、今回は綴ってみたい。
6月13日に、近鉄球団はオリックス球団と合併する旨の発表があって、間もなく1ヶ月が経過しようとしていた。まだ梅雨は明けていないが、充分と暑い大阪である。この間、この合併問題に絡めて、プロ野球界は大きく動いた。まず、これに納得できない選手会は、ヤクルトの古田さんが早速「特別委員会」の召集をNPBに申し入れた。しかし、それは間もなく開催される「12球団実行委員会」で健闘するとされ、讀賣の渡邉恒雄オーナー(当時)は、特別委員会など不要、選手会の要求とオーナー会議は次元が違うと吐き捨てた。このままでは、本当に何事もなく、合併は承認されてしまう。近鉄ファンはもちろん、オリックスファンもスタジアム内外で、合併に反対する運動が展開され始めたのである。ファンの反応・・・近鉄・オリックス両球団ファンともに反対であったし、他球団ファンはこの時点では、まだ関係ない立場だったかも知れないが、少なくとも、私の身の周りには、この合併に賛成する者は見当たらなかった。そして6月末に、近鉄・オリックスファンにとって待望の、その後に大きく影響を与えた人物が立ち上がったのだ・・・
堀江貴文。インターネットポータル企業「ライブドア」、所謂仕切りとしては「ベンチャー」企業の社長である。堀江氏によれば、近鉄球団の買収を申し入れたが断られた。しかし、合併するのであれば、野球界のために参画したいという旨の記者発表を行った。要は、近鉄球団が再三言ってきた「身売りしたくても、買い手が付かなかった」という言葉を翻す企業が、大衆の前に登場したのである。その後、近鉄ファンのみならず、オリックスファンも含め、プロ野球ファンはもちろん、その他の方もライブドアのポータルサイトにアクセスしたと思う。私は「ライブドア」という会社は、多少であるが知ってはいた。近年は、インターネットを軸に電子商取引を中心に「起業」するベンチャーが多いが、その大多数は1年も持たずに、倒産・吸収合併されて行く。そんな中で、ライブドアは数少ない生き残り企業であるのは事実である。インターネットという、実態が掴み難い業種が安定的な経営をするには、既存各企業のM&Aが必須であり、その代表が証券取引と通信商品売買である。よって経営者には、エンジニアのようなテクニカル面よりも、最新鋭の経営スキルが求められるが、楽天の三木谷社長はまさにそれ。一方、堀江社長はどうかと言えば、その両面を兼ね備える稀有な人物である。その反動か、近鉄球団買収発表の席で、Tシャツ姿できたとか、売名行為とか言う、お歴々の怒りの声も出た。私自身は、この段階では判断がつかずであったが、ただどちらにしても「合併消滅」するよりは良いと思っていた。この天才に球団を任せたらどうなるかは、まだ考えなくても良い段階であった。堀江氏は自らのブログに、7月4日に大阪ドームに行くと記載。そして、その日を迎えた。
前置きが長くなったが、この試合のステータスについては、ある程度説明が必要だった。対戦相手は、合併当事者のオリックス。堀江氏も、わざわざオリックス戦を狙っていたとは思えないし、対戦相手はあまり重要ではない。近鉄ファンにとって、シーズン終了まで、あくまで「合併反対」を貫き通すうえで、重要な試合だった。先発はパウエル、例年通りの内容の投球を魅せてくれているパウエルだが、今年は勝運に見放されここまで僅か3勝。一方のオリックスは本柳で、昨年あたりからボチボチ出始め、先月神戸では完投勝利を献上してしまった。余談だが、春先の大阪ドームで本柳が先発したとき、予告先発であるので前日から先発は解っているが、一応スタメン発表され、そのとき「ブルーウェーブの先発ピッチャーは『ほんごう』」とアナウンスされた。誰もがそうっだたと思うが、一瞬耳を疑い、あれ?本柳やなかったっけ?と思い、続いて「ほんごう」という漢字を思い浮かべ、「本郷:本柳」で大爆笑。要は、アナウンスミスであったが、長年バファローズの場内アナウンスを担当して下さっている方なので、悪くは言わない。で、出るヤジは「こらぁ〜、伊原ぁ、字ぃ綺麗に書かんかい!」となる。
前日のオリックス戦は、延長の末サヨナラ勝ち。その殊勲者である、マリオ・バルデスが初回に先制タイムリー、続く北川・益田の連打で、初回は幸先良く2点を先取した。マリオは、先月途中からチームに合流し、まずまず活躍している。このマリオの応援歌が、かつて猛威を奮った「ラルフ・ブライアント」の応援歌を使っているが、出だしの部分で、ラルフの場合の「飛ばせ場外」を「飛ばせ弾丸」と変えている。ドーム球場だから、場外はあり得ないので当然なのだが、何せラルフの応援歌は幾度となく歌ってきたので、何年も経過しているが「飛ばせ場外」と言ってしまう。それは、私だけではなく、応援仲間の年数が長い者は、皆一緒だった。しかし、パウエルも2回に谷のヒットを足掛かりに、ワイルドピッチで1点を失って、本日も接戦模様になってきた。以後は暫く、両投手の好投が続く。
そして、スタンドのあちこちを見渡し、例の堀江氏が何処に居るか探す。だが、なかなか見つからない。後で解ったが、私の探し方が悪かった。こういうケースは、結構人だかりができるものであるし、この日は甲子園で阪神戦もあるので、内野席は熱心な近鉄ファンしか来ない。熱心な近鉄ファンは、レプリカユニなどを着用しており、堀江氏は普段着で来るであろうから、応援スタイルの方は外していた。まあ、ご存知の通り、堀江氏はいきなりユニを着用して登場しており、なかなかお茶目なところがある。と、言うよりも、現場に来たなら現場の雰囲気に従え、というスタンスができているのであろう。そこらへんは、かなり賢いし、良く居る外野自由席の一見さんのように「応援が邪魔だ!」などと言う人種とは、レベルが違うのであろう。
好投のパウエルが捕まったのが6回、平野・村松・斎藤といったところを、続けざまに四球で塁を埋められ、主砲谷の犠牲フライで同点。続く塩崎のタイムリーで、2−3と逆転されてしまった。パウエルの良いところでもあり、悪いところでもあるが、結構のらりくらりの投球で、メリハリがない点が出てしまった。2枚看板のもう一人岩隈とは、同じ長身の上投げであるが、タイプは全く違う。岩隈は、切れ味の良いボールを低めに集め、できる限るランナーを出さないような投球で、ランナーを背負うと速いストレート中心に攻める投球。一方のパウエルは、高目のカーブ中心で、ランナーを背負ってもどこ吹く風のスタイル。よって、岩隈は良いときと悪いときの違いがはっきりしているが、パウエルは良く解らない。ただ、パウエルが岩隈より大きく優れている点は、何と言っても体力である。いや、数多くの外国人投手の中でも、体力は桁違ではないか。170球くらい投げても、中4日で完投してしまうのだから、回復力も桁違いなのだろう。だから、パウエルの場合は、球数が多くなっても全く心配がないのだ。そんなパウエル、次の7回はまた安定し始めたが、このときライトスタンドが騒然となった。
後から、テレビを見ていた人に聞いたのだが、7回の近鉄の攻撃から、応援の勢いが変ったと言う。7回のオリックスの攻撃中、34番通路付近が、騒々しくなった。堀江氏がきたのであることは、想像に難くなく、突如「堀江コール」が起った。まあ、プレイ中であるから、無用な騒ぎは禁物であるとは思うが、時が時だけに仕方のない面もある。むしろ、皆同じ思いなのが嬉しかったくらいで、礒部がチラッと振り向いたのも心理であろう。1点を追ったラッキー7、いやが上にもボルテージは上がる、1死後、こんな場面に相応しい男が、こんな時に華々しい活躍をする。「Oi、Oi、OiOi!」という大合唱の中、本柳の高目のボールを叩いた北川の打球は、レフト方向にいい角度で上がった。打球を目で追いながら、入れ!入れ!と、誰もが叫ぶ。そして打球は、レフトスタンドに吸い込まれ、同点になった。心なしか、北川が小さくガッツポーズするのを確認したが、今のライトスタンドの盛り上がりは凄まじい。コアな近鉄ファンのみが集まったこの日、この瞬間は立ち向かって行く勇気を得たような気分だった。
しかし8回表、レフトスタンドだって、コアなオリックスファンだらけだ。数の上では少ないが、負けじと精一杯の応援をしているように見えた。そして、その願いが叶ったのか、再びパウエルを攻める。2死後谷が四球で歩き、塩崎が左中間を割ったが、オリックスのチームリーダーは俊足を飛ばし、勝負度胸良くホームに突っ込み、再びリードを奪った。このオリックスの意地は、敵ながら感動した。近鉄サイドの盛り上がりに負けじと、スタンドも必死に応援し、選手もそれに応える姿。そう、これがパリーグの戦いなのだ。確かにオリックスは、過去2年最下位で、今年もその位置にいる。しかし、谷選手を筆頭に、素晴らしいプレイヤーは今もたくさん居る。ちょっとした、フロントとのボタンの掛け違いで、チームは良くも悪くもなってしまうのだ。パリーグ6球団、全てライバルであり、全て仲間だ。オールスターのときは、日頃ライバルでも応援するし、何より日本シリーズに出たチームは、是非セリーグチームに勝って貰いたい。特にこのオリックスは、同じ関西の仲間として、それぞれ大阪と神戸を中心に好ゲームをして行って、道頓堀に飛び込むとかではなく、関西のプロ野球の「本来あるべき姿」を示して行きたいのだ。
1点はリードされたが、8回の攻撃もライトスタンドのボルテージは落ちない。ここまで踏ん張ってきた、本柳から代打星野と大村が連続ヒットでチャンスを掴むと、生え抜き最古参の水口が打席に向かった。この合併騒動、チーム内に動揺があると思うが、この大ベテランは何を思う、どう対処している・・・ノーアウトだから、続く礒部・ノリに廻すのも手ではあるが、こんな状態だから水口が頼りになる。そして、そんな場面で、やはりいい仕事するのだ。本柳のストレートを真直ぐ打ち返した打球は、前進守備の村松の頭を超えた。これで、星野は還れるから同点で、問題は大村が還れるかである。そしてさすがに村松は俊足で、すぐに打球に追いつき、内野にボールを返す。しかし、大村も躊躇することなく、一気にホームへ向かい、遂に逆転したのである。殊勲の水口は、2塁ベース上で両手を腰にあてがいながら、スコアボードを見ている。その姿は、笑うでもなくガッツポーズをするでもない。そう、まだ1点差で、試合は終わっていないのである。続く礒部・ノリは期待するも凡退し、ちょっと嫌な感じがした。そして、最後の守りで、今年は開幕からずっと1軍に定着している吉川がマウンドに上がる。しかし、吉川は先頭のオーティズに左中間を割られ、大ピンチとなって、マウンドを吉田豊彦に譲る。吉田はいつも、厳しい場面での登板だが、今日は何とか勝ちたい。その期待に応え、吉田はランナーを背負いながらも、淡々と後続3人を討ち取りゲームセット。色々な意味で、会心の勝利だった。
試合終了直後、ヒーローインタビューも始まっていないとき、1塁ベンチから選手会長の礒部と主砲のノリが並んで、ライトスタンドに向かって走ってきた。それに追随するような第2列のように、副会長の大村を先頭に、全選手が出てきた。何事か?と一瞬思ったが、そうか、堀江氏も来ているのもあるが、この凄まじい応援を、選手たちも感じ取ってくれたのだろう。私は選手にあまり負担を掛けるのを本意としないが、この姿は嬉しくもあり、複雑な心境だった。何よりも、選手会に所属していない外国人選手も、この輪に加わっていたのが嬉しかった。8回まで投げ、クールダウンの途中のパウエルも、アンダーシャツにグランドコートを羽織っている。いつも肝心なところで打たれて、罵声を浴びているカラスコも、スタンドに手を振る。そして、最後尾には梨田監督の姿もあり、笑顔でスタンドと向き合っている。こんな選手たちの姿を見て、近鉄の経営陣は感じなかったら、末期の不感症である。その後は、水口のヒーローインタビューも、滞りなく行われ、堀江氏は2次会も参加して帰った。
そして、そんな近鉄・オリックスファンが、それぞれの立場で合併反対を唱えているのを、あざ笑うかのように。この両球団ファンどころか、パリーグファン全体の怒りと、プロ野球ファン全体の不信感を買った発言があったのは、そんな感動的な大阪ドームから、僅か3日後の7月7日のオーナー会議であった。
